ライブラリー・ミュージアム・アーカイブ研究最前線

LMA分野における研究データマネジメント支援研究の最前線:政策、技術、そして専門性

Tags: 研究データマネジメント, RDM, FAIR原則, データキュレーション, 学術情報流通, 図書館情報学, アーカイブ学

はじめに

近年、オープンサイエンスの推進に伴い、研究データを取り巻く環境は大きく変化しています。研究成果としての論文だけでなく、その基盤となる研究データの公開・共有が強く推奨されるようになり、研究者には適切なデータマネジメントが求められています。この研究データマネジメント(RDM: Research Data Management)の重要性の高まりは、図書館、博物館、アーカイブといったLMA分野に対しても、新たな役割と専門性の発揮を求めるものとなっています。

LMA機関は、長年にわたり情報の組織化、保存、提供に関する専門知識とインフラを蓄積してきました。これらの知見は、研究データの長期的な保存、適切な記述と公開、再利用性の確保といったRDMの根幹をなす部分と深く関連しています。そのため、研究機関におけるRDM支援において、LMA分野の専門家が果たす役割への期待が高まっています。

本稿では、LMA分野における研究データマネジメント支援に関する最新の研究動向について、主に政策、技術、そして専門性という観点から論じます。多忙な研究者の皆様が、この分野の現在地と今後の展望を効率的に把握するための一助となれば幸いです。

RDM支援を巡る政策動向とLMAへの影響

国内外の研究資金配分機関(ファンダー)は、研究データの公開・共有を義務化するポリシーを次々と打ち出しています。例えば、米国NIHや欧州のHorizon Europeなどが研究データの管理・共有計画(Data Management Plan: DMP)の提出を義務付けており、日本国内でも公的資金による研究におけるデータポリシー策定が進められています。

こうした政策動向は、大学や研究機関に対し、研究者へのRDM教育、DMP策定支援、研究データリポジトリの整備といったインフラとサービスの提供を強く促しています。LMA機関は、機関リポジトリの運用経験、メタデータに関する知識、著作権・データ倫理に関する知見を活かし、これらの政策遵守支援において中心的な役割を担うことが期待されています。

LMA分野の研究では、こうした政策が研究者のデータ共有行動や機関の支援体制にどのような影響を与えているか、またLMA専門家が政策形成やその運用にどのように関与しうるか、といった点が重要な研究課題となっています。単なる技術提供に留まらず、研究コミュニティ全体のデータ文化醸成におけるLMAの貢献を考察する研究も進んでいます。

技術的課題とFAIR原則実践に向けた研究

RDM支援における技術的な側面は多岐にわたります。研究データの長期保存を可能にするリポジトリシステムの選定と運用、様々な研究分野のデータに対応するための技術的要件の検討、そして最も重要な課題の一つである「FAIR原則」の技術的実現に向けた研究が進んでいます。

FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)は、研究データを「見つけやすく、アクセス可能で、相互運用性があり、再利用可能にする」ための指針です。これを技術的に実現するためには、以下のような要素が研究の対象となります。

これらの技術要素は、単にシステムを導入すれば解決するものではなく、各研究分野の特性、データの種類、機関のポリシーなどを考慮した複雑な検討が必要です。LMA分野の研究では、これらの技術的課題を、情報の組織化、デジタル保存、学術情報流通といった既存の専門知識と結びつけ、研究データに特化した形で応用・深化させる研究が進められています。また、クラウドストレージや外部のデータ共有プラットフォームとの連携における技術的・制度的課題も重要なテーマです。

LMA専門家に求められるスキルと教育研究

RDM支援におけるLMA分野の役割拡大は、専門家に新たなスキルセットを求めています。伝統的な図書館情報学、博物館学、アーカイブ学の知識に加え、以下のような能力が特に重要視されています。

これらのスキルをどのように育成し、LMA分野の専門職教育プログラムに組み込むか、また、既存の専門家が継続的にスキルアップするための研修プログラム開発も、重要な研究課題となっています。新たな専門職として位置づけられる「データキュレーター」や「データスチュワード」の役割と、LMA分野の専門職との連携やキャリアパスに関する研究も進められています。LMA分野の研究者自身が、こうした変化に対応するための研究を展開していくことが求められています。

今後の研究課題と展望

RDM支援研究は、まだ発展途上の分野であり、多くの研究課題が残されています。

一つの重要な課題は、RDM支援の効果測定とインパクト評価です。LMA機関が提供するRDMサービスが、実際に研究データの質向上、共有促進、再利用にどの程度貢献しているかを定量・定性的に評価する手法論の開発が必要です。

また、多様な学問分野の研究データへの対応も課題です。人文科学や芸術系など、定量的データが少ない分野や、非伝統的なデータ形式(音声、画像、動画、3Dデータなど)を扱う研究に対するRDM支援は、計算科学分野などと比較してまだ確立されていません。これらの分野に特化したデータキュレーション手法やメタデータ記述法の研究が求められます。

研究者コミュニティとの協働モデルの構築も不可欠です。LMA専門家が一方的にサービスを提供するのではなく、研究者自身がRDMの主体であることを踏まえ、協働しながら最適なデータ管理ワークフローを構築するアプローチが重要になります。

将来的には、AIや機械学習といった技術を活用し、メタデータ生成支援、DMPレビューの自動化、研究データからの知識発見支援など、RDMプロセスのさらなる効率化や高度化を目指す研究も期待されます。

まとめ

研究データマネジメントは、オープンサイエンス時代における学術コミュニケーションの基盤であり、LMA分野がその専門性を発揮し、貢献できる重要な領域です。本稿では、RDM支援を巡る政策動向、FAIR原則実践に向けた技術的課題、そしてLMA専門家に求められるスキルと教育研究の最前線を紹介しました。

これらの動向を理解し、自らの研究に取り入れることは、LMA分野の研究者が変化の激しい学術環境において、その存在意義を示し、新たな貢献分野を切り拓いていく上で不可欠です。今後の研究においては、単に既存の知識や技術を応用するだけでなく、LMA分野独自の視点からRDMにおける本質的な課題を特定し、解決策を提案していくことが求められます。研究者の皆様が、このダイナミックな分野の研究に積極的に取り組んでいかれることを期待いたします。